不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
本社から車で二十分ほどで、デザイン制作会社“ネージュ・バリエ”が入居している横浜駅付近のオフィスビルに到着した。
オフィス街に佇む七階建てのビルはチョコレートのような焦げ茶色で、一階のカフェとよくマッチしている。十月にしては暑いくらいの日差しから逃れるように中へ入って五階へと向かうと、デザイン会社らしいセンスのよさを感じるオフィスが待ち構えていた。
ドラマの撮影にそのまま使えそうだなと思いながら、可愛らしい女性スタッフに案内されて奥へと向かう。
ざっと見たところ社員数は三十名もいないくらいで、比較的若い人が多い。広告や雑誌、webデザインなども手がけており、業界内では有名な新進気鋭の会社だが、想像よりも規模が小さくて少し驚いてしまった。
パーティションで仕切られた応接スペースのソファに座ると、すぐにふたりの男性がやってきて、にこやかに挨拶を交わす。
「お待ちしておりました。ご来訪いただきありがとうございます」
落ち着いた所作で頭を下げ、わずかに口角を上げるのは、ネージュ・バリエを立ち上げた社長の久礼(くれ)さんだ。
泉堂社長と同じ、三十五歳くらいだろうか。男らしい精悍な顔立ちで、掻き上げた黒髪と切れ長の瞳が、そこはかとなくワイルドなセクシーさを漂わせている。