不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
これだから頭のお堅いリケジョは。耀のことを話題にしてくるから、意外と受付の子たちみたいにミーハーなのかと思いきや、全然そんなことなかったわ。

廊下を歩きながら、脳裏にはまた小学生時代の記憶が過ぎる。

今しがた言った通り、彼とは本当になにがあったわけでもないが、私にとって印象的な人ではあった。


『“毒舌”って意味知らなかったんだけど、綾瀬さんのあだ名のおかげで覚えたよ』


五年生のとき、転入してきた耀に初めてまともに話しかけられた内容がそれ。

ニコニコしてそんなことを言うから、なんだこの嫌味なヤツは、と若干引いたことを覚えている。転入早々、皆と同じく面白がって“毒舌なっちゃん”と呼んでいるのか、と。

しかし、彼が口にした次の言葉は意外なものだった。


『皆、失礼だね。僕は“なっちゃん”って呼ぶから、僕のことも名前で呼んで』


そのとき、初めて胸が鳴るという感覚を覚えた気がする。

二重の瞳を細めて屈託なく笑う彼が、なによりも綺麗に見えて、この人は他の人とは違うと感じた。そして、純粋に嬉しかった。

彼となら友達になれるかもしれない──そう期待したのに、台無しにしてしまったのは他でもない自分だ。
< 23 / 124 >

この作品をシェア

pagetop