不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
しおらしく微笑んでいた私は、彼の姿が消えた途端、サッと表情を無にした。せっかくの休憩時間に、なんだか無駄な時間を割いてしまった気分だ。


「明日でいいなら最初からそう言ってほしいわ、あのだるまオヤジ……」


階段のほうへと身体の向きを変え、ため息交じりについ愚痴をこぼした、次の瞬間。


「やっぱり中身は変わってないね、なっちゃん」

「ひっ!」


誰もいないと思っていた階段の陰から人がひょこっと顔を出し、私は猫のように毛を逆立てる勢いで驚いた。同時に、サーッと血の気が引いていく。

ヤバい、私としたことが油断していた。素の口の悪さを聞かれてしまうなんて……しかも、この男に!

スーツ姿で片手をポケットに入れた彼は、美しさの中に微々たる意地悪さを交じらせた笑みを湛えて、こちらに一歩足を踏み出す。逆に、私は一歩下がった。


「耀っ……な、なんでそんなとこに!?」

「そこの休憩スペースでひと息ついてから帰ろうと思ったんだよ。そうしたら、物腰柔らかでお上品な秘書さんが『だるまオヤジ』とか言っちゃってるから──むぐ」


あっけらかんと復唱するものだから、私は慌てて彼の口を手で塞いだ。他の人にも聞かれたらシャレにならない。
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