不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
キョロキョロと周りを見回し、他には誰もいないことを確認する。「ちょっとこっち来て!」と言って耀の手を引き、空いているミーティングルームへと駆け込んだ。

ドアを閉めて深く息を吐き出すと、ブラインドが下りていて薄暗い室内に耀のいたずらっぽい声が響く。


「こんなとこに連れ込むなんて、なっちゃん積極的」

「は?」

「やっとふたりきりになれたし、僕はこういうシチュエーションも大歓迎だけど」

「勘違いもほどほどにしな」


秘書の仮面を取っ払って、冷めた視線と声を突き刺した。

昔とさほど変わらない素に戻った私に、耀はおかしそうにクスクスと笑う。当然、今の発言は冗談だったらしい。


「懐かしいな、その感じ。挨拶しに来てくれたときから君らしくないと思ってたけど、やっぱり素は隠してたわけだ」


彼はミーティングテーブルに軽く腰かけ、腕を組む。そのしたり顔すらも美しいと思えるのだから悔しくなる。

でも確かに、こうやってなんの気も遣わずに話すと、子供の頃に戻ったみたいで懐かしい。この間は仕事中だったから、こんなふうに打ち解けて話せなかったし。
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