不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
ロビーのほうから顔を背け、そそくさとエントランスに向かう。そして自動ドアを通り抜けようとした、そのときだ。


「きゃっ!?」


ヒールの踵が溝に引っかかってしまい、よたよたと転びそうになりながら歩道に飛び出た。ヒールを置き去りにして。

片足だけストッキングでつんのめる滑稽な私に、道行く人が驚きと憐みの視線を向けてくる。

めっ、ちゃくちゃ恥ずかしい! 転ばないだけよかったけど!

地中深くに潜りたい気分で、急いでヒールを取ろうとしたとき、本社の中から耀が駆けてくるのが見えた。しまった、と思ってももう遅い。


「なっちゃん! 大丈夫?」

「だ、大丈夫……」


気づかれずに帰るどころか、こんなドジな場面を目撃されてしまうとは……と、一瞬屈辱を覚えたものの、守るようにしっかりと肩を抱かれてドキッとする。

私を支えてくれる彼は、溝に嵌ったままのヒールを一瞥し、クスッと笑って私の耳元に唇を寄せてきた。


「まだ十二時には早いですよ、シンデレラ」


甘い声が流れ込んできて、恥ずかしさとくすぐったさが全身に広がっていく。

いつものようになにか返さなくてはと思うのに、なぜか言葉が出てこない。
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