不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
そして、私に手の平を差し出してくる。


「一緒に帰ろう。エスコートしますよ。また靴を落とさなくていいように」


もう、冗談でもお姫様扱いはしないでほしいのに……無駄に胸が鳴いてしまうから。

憎らしいほどの王子様スマイルを向ける彼に戸惑いの視線を送るも、皆が見ている今この手を振り払うこともできない。

結局従うしかなく、私はそろそろと自分の手を彼のそれに乗せた。


手を繋がれて本社を出ると、ようやくいたたまれない視線から逃れることができ、大きなため息を吐き出した。


「はぁ、明日が怖いわ……女性社員の餌食にされそう」

「なっちゃんなら、いざとなれば口から毒を盛れるから平気じゃないの」


無邪気な笑顔であっけらかんと言う耀を、据わった目でじろりと睨む。

あながち間違いじゃないけど失礼な。さっきまでの王子様対応は、やっぱり皆の前で私を困らせたかったからに違いない。

彼は不満げな私など気にせず、「電車?」と問いかけてくる。とりあえず頷くと、「僕も同じ」と言って駅方面へと歩き出す。手は繋いだままだ。
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