不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
「紗菜(さな)、今から飲みに行かない?」
午後六時半、本社を出たところで小学校時代からの唯一の女友達に電話をかけ、単刀直入に誘った。昔の私を知っていて、それでもいまだに仲良くしてくれている、貴重な親友だ。
電話の向こうからは、元気ではあるものの嘆く声が聞こえてくる。
『ごめん、なつみ~! 今残業中で、全然終わる気しなくって』
あらら、タイミングが悪かったらしい。
出版社に勤めている彼女は、真面目で穏やかで、いつも笑顔を絶やさない素敵な子。急な誘いでも喜んで会ってくれるのだが、トラブルがあったりすると遅くまで働いている。今日も大変そうだ。
「そうなんだ。ごめん、忙しいときに」
『大丈夫。ちょうど息抜きしたかったところだから、ちょっと話そ』
気を遣ってくれたのか、本当に休憩したかったのか、おそらくオフィスにいたであろう彼女がどこかへ移動しているような気配が感じ取れる。
しばらくして、ピッと鳴る機械音が聞こえてきたので、飲み物でも淹れているのかなと想像していると、紗菜が意外そうな声を投げかける。