不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
「君は今、彼氏いる?」


定番とも言える質問をされ、もう口元にしか笑みを作らずに、少々ぶっきらぼうに答える。


「いません」

「本当に? こんなに綺麗な子を放っておくなんて、今の若い男は草食系というか見る目がないというか……」


彼はわずかに嘲笑を漏らし、ゴトリとグラスを置く。すると、あろうことか私の肩に手を回してきたのだ。

突然のスキンシップにギョッとする私の耳に、彼の顔が近づいてくる。


「俺ぐらい年上には興味ないかな。もしよかったら、このあともう一件行かない?」


ぞわぞわっと背筋に寒気が走る。

ダメだ、この人。完全にお持ち帰りしようとしている。このアットホームな居酒屋に似つかわしくないことをするな……というか、私の至福の時間を邪魔するな!

嫌悪に加え怒りが込み上げてきて、これ以上しおらしく振る舞うことに限界を感じた。


「ちょっと、離し──!」


肩を抱かれた手を振り払おうとしたそのとき、急にふっと肩が軽くなって男性が離れた。

彼が自ら手を離したのかと思ったのは一瞬で、私たちの後ろに誰かが立っていることに気づく。その人物を振り仰ぎ、私は目を見開いた。
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