不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています

彼の左手薬指に指輪が光っていることには、もちろん私も気づいていた。

隠す素振りはなかったから単純に気にしていないのかもしれないが、既婚者にホイホイついていくような女だと思われていたとしたら、実に腹立たしい。

私たちの蔑みの目線に耐えられなくなったのか、男性は苛立ちを露わにした顔をふいっと背け、財布を取り出す。どうやら帰る気になったらしい。


「フン……ぺーぺーの若造が、生意気な口を利かないでほしいね。ひとりで寂しい女にちょっと声をかけてやっただけなのに、勘違いも甚だしい。とんだ迷惑だ」


悔し紛れに吐き出されたその発言で、私は完全にカチンときてしまった。

今さら被害者ぶって、何様のつもり？　やっぱり黙っていられない。この男には一発かましてやらないと。


「……迷惑？　それはこっちのセリフよ」


ボソッと呟いた私に、カウンターにお金を置いた男性と耀が同時に目を向ける。


「人のこと質問攻めにして、馴れ馴れしく肩まで抱いて。挙げ句、このあとも誘ってきたくせに『ちょっと声をかけてやっただけ』って、どの口が言ってんの？　こっちはいい気分で美味しいお酒と料理を楽しんでたのに台無しよ。ていうか、女がひとりでいるからって寂しいって決めつけないで！」