不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
険しい顔でひと思いにまくし立てると、握った拳でドン!とカウンターを叩いた。私の勢いに、その場がシンと静まり返る。

さすがのオジサマも、私の変貌に呆気に取られている。そんな彼に向かって、私はにこりと微笑んでみせた。


「それでも声をかけただけだと言うのなら、今一度考え直したほうがよろしいかもしれませんよ。女性に対する言動や距離感を」

「っ、なんだと!?」


憤慨した男性は顔を赤くして腰を上げ、耀が咄嗟に私との間に立ちはだかる。

一瞬ひやっとしたものの、揺らがない瞳で見据える耀の圧力と、人がたくさんいる店内という状況には彼も負けるだろう。

憤りを堪えるように唇を噛みしめてビジネスバッグを持った彼は、私に横目を向け、嘲るように鼻で笑う。


「君のいいところは見てくれだけだな。すっかり騙されたよ」


嫌味ったらしい捨て台詞を吐き、男性はお客さんの視線を一様に集めながら店を出ていった。

その姿を見送っていると、小さな舌打ちと、「あいつ……」と忌々しげに呟く耀の声が耳に入ってくる。でも、私としては追い払えただけで多少スッキリした。
< 57 / 124 >

この作品をシェア

pagetop