不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
顔を見られて少しホッとしたが、なんの予告もなくうちに来るなんて疑問しかない。


「どうしたの? こんな時間に」

「ごめん、緊急事態」


耀は困り果てた様子で言い、まさしく自分の家みたいに自然に玄関の中に入ってこようとする。私は怪訝な顔をしつつも、なんだか穏やかじゃなさそうなので特に拒否せず受け入れた。

閉めたドアを背にした彼は、バツが悪そうな顔でわけを話し始める。


「仕事終わって帰ってきたんだけど、会社に鍵を忘れてきたことに今気がつきまして」

「……それで?」


すでに嫌な予感がして眉をひそめつつも先を促すと、彼は可愛らしく小首をかしげて問いかける。


「泊まっていい?」

「無理!」


予感が的中し、私は食い気味に答えた。

私はただの女友達なのよ? そう易々と泊めるわけないでしょうが。甘えたみたいに可愛く尋ねてもダメ!

絶対に折れないからね、と強気で腕を組む私。しかし、耀は私の肩に手を乗せると、伏し目がちな瞳で顔を近づけてくる。

彼の柔らかな髪が耳をくすぐり、ゾクリとすると共に、なにをされるのかと身構えた。
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