不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
手を振りほどけずにいると、彼は続けて言う。


「おかげでだいぶ回復したけど、まだ足りないな」


次の瞬間、手首を引かれて身体がバランスを崩す。瞠目する私は、再びベッドの中へ引き込まれてしまった。


「ちょっと!」

「もう少しだけ、こうしていて」


耀は私に布団をかけ、その上からそっと抱きしめるように片腕を回す。直接触れているわけではないけれど、彼に包まれているように感じてドキドキする。

ここから抜け出せないのは、いつの間にかアラーム音が勝手に消えていて、しばらく止める必要がなくなったから。

頬がほんのり染まるのを自覚しているにもかかわらず、心の中で苦しい言い訳をして、口でも可愛げのないひとことをボソッと呟く。


「……遅刻したら耀のせいだからね」

「確かに。そのときは、もう仕返しするのやめるよ」


向き合う耀に軽く笑ってそう返され、ちょっぴり複雑な心境になる。

仕返しなんてとんでもないと思っていたのに、いざやめるとなると物足りなく感じてしまう自分がいる。まんざらでもなかったのだ。彼にからかわれたり、お姫様扱いされることが。

なんだか、どんどん自分がカッコ悪くなって、感情のコントロールが効かなくなっていく。

どれもこれも、耀のせいだ。あなたを、好きになってしまったから──。

< 80 / 124 >

この作品をシェア

pagetop