不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
それから私は鶴見駅で降り、サンセリール本社へと向かう。すると、改札を出たところで後ろから声をかけられた。


「綾瀬さん! おはようございます」


振り向けば、倉橋さんが眼鏡の奥の瞳を細めて挨拶する。通勤中に会うなんて珍しいなと思いつつ、「おはようございます」と会釈した。

彼女は私の隣に並び、歩幅を合わせて歩きながら話しかけてくる。


「さっき、横浜駅で誰かと別れてるのを見かけましたけど、あれって加々美さんですか?」


さらりとそんなことを言われ、私はギクリとして思わず足を止めてしまった。


「見てたの!?」

「はい、偶然」


うわ、まさかこの子もいたとは……! ただ耀と一緒に電車に乗っていただけで、今日は手を繋いだりはしていないけれど、とっても気まずい。

しばしなにも言えずにいると、倉橋さんは私の耳に顔を近づけてコソッと問いかける。


「もうそういう関係になられたんですか?」

「違うわよ! ただ、いろいろあってうちに泊まっただけで……」


関係を否定するも、昨夜と今朝の過度なスキンシップを思い出して、言葉尻を濁してしまう。
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