不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
それからは、長沼さんとは極力目を合わさずに他の皆さんの話と食事に集中した。お酌もしたくはなかったが、こればっかりは仕方ない。

予想通り、何事もなく会は進み、最後にお茶が出される頃合いを見計らってお手洗いに行くために席を立った。


「はぁ、疲れた……」


洗面所の鏡に映る自分と目を合わせ、ぐったりしながらため息と共に本音を吐き出す。こんなに気を遣った接待は久しぶりかもしれない。

それもあと少しの辛抱だ。さすがに長沼さんもあの件には触れてこないし、このまましらばっくれて乗り切ろう。

ぺちぺちと軽く頬を叩いて気合を入れ、背筋を伸ばしてトイレを出た。

しかしその直後、前方から長沼さんがこちらに向かって廊下を歩いてきたため、ギョッとして挙動不審になる。

ちょっと、なんで来るのよ! トイレか、もしくはお会計? どっちにしろ一対一にはなりたくないのに!

あたふたしてもう一度トイレに逃げ込もうかと思ったが、それを阻止するかのように話しかけられてしまう。


「やぁ、まさかこんなところで再会できるとはね、綾瀬さん」


以前も見た胡散臭い笑みを向けて、距離を詰めてくる彼。
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