不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
この人の前では気品ある姿を取り繕っても意味がないので、仕方なく冷めた笑顔と言葉で応戦することにした。


「長沼さん、その節はどうも。悪縁というものは切れないものですね」

「悪縁? 俺はよかったと思ってるよ。あの日、俺に恥をかかせた責任を取ってもらうことができそうだから」


社長たちの前で見せていたものとは違う顔を覗かせる彼に、私は眉をひそめる。


「責任って──」

「今度、改めて食事をしに行こう。ふたりで」


なにを言われるのかと思えば食事の誘いで、呆れ返った私はぽかーんとしてしまった。

この間あんなことがあったばかりだというのに、どういう神経をしているのだ、この男は。


「奥さんがいらっしゃるくせに、まだ私を誘うんですか? 学習能力のない部長様だこと」

「妻との仲はすでに冷え切っている。それに、君のそういうところに逆に火をつけられるんだよ」


遠慮なく悪態をついたにもかかわらず、長沼さんにはまるで効いていない。むしろ楽しそうにしていて、まさに糠に釘状態だ。
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