不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
接待は無事終わったが、思いもよらない展開となってしまった。
どうにかならないものかと昨日から一日考えあぐねても、できるだけ穏便に済ませるためには、やはり言いなりになるしかないという結論に辿り着く。
……大丈夫、食事をしに行くだけだ。さっさと食べて帰ってやる。
自分に言い聞かせながら仕事を終えて帰ってきた私は、エントランスに入る前にマンションを見上げて、今彼はいるだろうかと想いを馳せる。
重なってしまった耀との食事、断らなきゃ。せっかく楽しみにしていたのに……。
悔しさから下唇を噛んだとき、コートのポケットに入れていたスマホが鳴り出した。表示される着信は知らない番号だが、予想はついている。
気が重くなるのを感じるも、通話をタップしてスマホを耳に当てた。
「はい、綾瀬です」
『お疲れ様。よかったよ、電話に出てくれて』
出なければどうせまた脅してくるでしょ、と電話の主の長沼さんに心の中でツッコむ。
昼間、私の名刺に記載していたアドレス宛てにメールが来て、そこで個人携帯の番号を教えたのだ。もちろん教えたくなどなかったけれど、これも致し方ない。