不機嫌ですが、クールな部長に溺愛されています
気持ちだけでなく足取りも重くなり、のっそりとエントランスに入りながら、『明日のことだけど』と話し出す声を耳に入れる。

用件を聞いていると、マンションの住人がもうひとりやってきたことに気づき、オートロックを解除するのはあとにしてエントランスの隅に移動した。


「明日の午後七時、ブリスフルホテルのバーラウンジですね。わかりました」

『楽しみにしてるよ』


彼がニヤリと笑っているのが想像できる。身震いしつつも業務連絡のように話を済ませ、「失礼します」と愛想のない声で放ってすぐに切った。

昨日から幸せをすべて逃しているんじゃないかというほどついているため息を、今また深く吐き出した、そのときだ。


「なっちゃん」

「わぁっ!」


背後から突然話しかけられ、ビクッと肩を跳ねさせると同時に叫んでしまった。バッと振り返れば、スーツ姿の耀がキョトンとしている。

あとからやってきたのは彼だったのか! よく見なかったから、知らない住人だと思っていた。


「びっくりした……! なんでいるの!?」

「なんでって。コンビニ寄って帰ってきたらなっちゃんがいたから、電話終わるの待ってただけだよ」
< 94 / 124 >

この作品をシェア

pagetop