未然見合い
「ほんと、お前だけは思い通りにいかないわ」
「……そりゃどうも」
こいつ、相変わらずだ。
あたしが抓ってやったところに赤い舌を這わせて、捕食者のような鋭い光を瞳に帯びさせて。
妖艶、ううん、凄艶とも取れる色気は学生の頃の何倍にも膨れ上がっている。
「あーあ、母さんたち何処行ったんだろ」
そんな奴を直視出来ずに、素早く視線を逸らすあたしは昔から何ひとつ変わっちゃいない。
あくまで自然な動作で髪を掻き上げ、視界から翔太を追い出そうと試みる。
視線はスマホに注ぐ傍ら、どくどくと早鐘を打つ心臓はどこまでも素直だ。
――だけど、奴はあたしを逃がしてはくれなくて。
「好美」
「っ、なに、ほんと…!」
掴まれた手首が異様に熱い。
まずい、ばれる。あたしのことなんか最初から眼中にもないこいつに――本当の気持ちが、ばれる。
と、そのときだった。
「あら、好美帰ってたのね?おかえりー」