未然見合い






険しい顔付きもそのままに足早に歩を進めてくる翔太。

そんな男を認めたあたしは、今朝方これ以上ないくらい胸を巣食っていた怒りも何処へやら。



「(なんか……、キレてる……?)」





あわあわと焦燥に迫り立てられるばかりで、見る目明らかに悪化の一途を辿っている奴の機嫌に内心首を傾げるばかりだった訳で。



――――と、



「奥さーん」






すっかり宵に呑まれた界隈に驚くほど響いた声音に目を丸くし、その主である翔太の背後の男へと視線をとばす。

見覚えのあるそのカオ。

翔太の忘れ物を届けたときに初めて会ったその男を再度この目で認めることになるとは。正直、あんまり好きになれないタイプ。

あのときから感じていた印象っていうのはやはり間違いではなかったらしい。何故なら、








「例の名刺入れたの俺でーす、すんませーん」









そんなふうに謝罪を口にする割に、至極愉しげな笑みを口許に浮かべていたから。

やはり、食えない男である。






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