未然見合い
幸い、その視線は下に向けられていて。
ほっと内心安堵の息を吐く傍ら、なんであの男の所為で動揺しなきゃいけないんだと癇に障った。
「……知らない。あたしには関係ないし」
「まーた、つまんない意地張っちゃって」
「、そんなことない!これ、リビングに置いとけばいいの?」
「あーうん、お願い」
慣れないヒールなんて履くから。
脱ぐのに結構な時間を費やしている母を見兼ねて、そう零したのはあたし。
―――"つまんない意地"
分かってる。そんなの、学生の頃からずっと張ってるんだから。
でも、そうさせたのは他でもない翔太なんだから。
仕方ないじゃない。
だってそうするしか、ないじゃないの…。
リビングに向けようとしていた足を、躊躇うように方向転換させて久方振りの自室に向かう。
なるべく音を立てないように階段を上り、木目調のドアを開ければ懐かしい匂いがあたしを包んだ。
「……変わってない」