未然見合い
Chapter.3
/ゲンバ
あの頃のあたしは、恋なんて知らない子どもだった。
『翔太!帰ろ――…ってあれ、いない?』
『よー、好美。翔太なら多分、委員会か何かだと思うぞ』
愛想よく答えてくれた男の子にお礼を述べ、くるりと身体を反転させて廊下を進む。
勿論、向かった先は翔太が居るであろう教室で。
この先にある光景がどんなものか、なんて全く考えずに。
鼻歌混じりに歩を進めていたあたしは未熟で、愚かで、滑稽だった。
ドンッ。
『あ、すみませ……』
『わっ、こちらこそごめん』
見上げた先にあったのは、翔太よりも少しだけ大人びた顔立ちの男子生徒。
その雰囲気からも察することは出来るけど、一応上履きの色を確認すれば上級生だった。
恐らく翔太の委員会の先輩だろうと踏んで、『いま終わりですか?』と声を掛けてみることに。
『うん、ちょうど終わったとこ』
案の定そんな言葉を貰って、思わず頬が緩む。
軽く頭を下げてその場をあとにしようと足を踏みだした、そのとき。