未然見合い
* * *
「ただいまー」
暫く頭の隅に追い遣られていた記憶を引っ張り上げ、回想に浸っていたあたしはビニール袋片手にマンションの扉を開ける。
返って来ない翔太の声にやっぱり寝たよね、なんて。
8センチヒールのパンプスを玄関に脱ぎ捨て、そのままの足取りでリビングの戸を開ける。
「………あら」
すると網膜に流れ込んできた光景に、眉尻を下げそんな言葉をおとしてしまった。
だって、てっきり寝室に居ると思っていたから。
「ちょっと。こんなとこで寝たら悪化するじゃない、ばか」
「バカじゃねぇ……、って」
「寝言?」
タイミングをはかったように返ってきた台詞は、先ほどの回想を彷彿とさせるもので。
しかしながら奴の様子を見る限り寝言だったらしく。
思わず微笑に口許を染めてしまったのは、きっと仕方のないこと。
案外、翔太もあの頃の夢を見たりしているんじゃないかと思ったから。
彼と彼女の今とむかし
(いまが幸せならそれに越したことは無いんだって)