未然見合い
『あー…、この先には行かないほうがいいかも』
『…?何でですか?』
『ちょっと後輩がさ、盛ってるから』
―――さかってる?
深く意味を捉えられず、『大丈夫です、ありがとう』なんて言葉を並べた自分を後になって心底呪った。
その先輩ともそこで別れ、一人になったあたしは教室を目指して渡り廊下を突き進む。
委員会に使われていた教室までの道のりで最後の角を曲がった、そのとき。
『ん、』
耳に入ったのは、女の子特有の高い声音。
それは酷く甘くて、くぐもったような―――声、というより音に近かった。
『(……!)』
自らの存在が場違いであることに気付くまで、そう時間は掛からなかった。
この時ばかりは翔太を探しに、なんて目的も頭から抜け落ちていて。
相手側に悟られる前に去ってしまおう、と。早急に踵を返した。
そのとき、だった。
『翔太くん……』
自分の耳を、これでもかと疑った瞬間。