未然見合い
な、に?
今、"翔太"って言わなかった…?
どくん、どくん。
滅多にないほど早鐘を打つ心臓を抱えたまま、そっと校舎の壁に背を預けて。
『…、……』
予想なんて、容易につくのに。
自分の眼で確かめなきゃ信じられない。恐らくこの時のあたしはそう思っていた。
『……先輩、』
『しょ、た…くん、』
―――嗚呼、もう、どうしようもない。
なんて馬鹿なんだろう。
自分から傷付くなんて、ほんと馬鹿。あたし実はMなんじゃないの。
抱きあう男女を視線が捉えて、どうしようもなく胸が痛んだ。
無意識の内に、頬を涙の粒が流れ落ちた。
だって、知らなかった。
翔太が誰かと付き合ってるなんて、聞いたことも無いし知らなかった。
『…、…はは…。カッコ悪、』
駆け込んだトイレで耐えきれず、そんな言葉を落としたりして。
こんな形で翔太への気持ちに気付くなら、一生自覚しないままで良かったのに。