未然見合い
「……もしもし」
相手も確認せずに電話に出てしまったから、一先ずその挨拶を挿まない訳にはいかなくて。
折角だからと、脇に退けておいたメイクオフのシートを一枚引っ張り出す。
そんな中でも、片手はスマホを掴んでいたのだけれど。
途中で引っ掛かっているらしく、中々出てこないシートに苛つきながらも舌打ちは我慢。
電話の相手が誰かも分からないでそんな失態を晒すほど、落ちぶれちゃいないわ。
"…、……"
「?もしもーし」
なに、雑音?
耳孔を掠める機械音独特の音に眉根を寄せつつ、もう一度相手側に問い掛けてみるが応答なし。
仕方なくシートを一時諦めて、スマホの画面を正面から目視してみた。
表示されているのは通話時間と、相手側の名前――って、ちょっと待って!
「母さん!?」
思わず声を張り上げながらそう言葉にすれば、耳に入るのは相変わらずの機械音。
電波悪いのかも、なんて考えで一旦電源を切ろうとしたけれど、
"……好美《このみ》?"
やっとの事で耳に届いた母の声に、ほっと胸を撫で下ろした。