未然見合い
「うん、あたし。どうしたの?」
なんだ、母さんだったんだ。
仕事の電話かも、なんて思ったりしていたから少し肩の荷が下りた気分だ。
片手で掴んでいたスマホを肩と耳元で支え、今度は両手でシートを掴みにかかる。
スルッと難無くひき出せたメイクオフのそれに一息吐き出した。
"それはこっちの台詞よ。全然帰って来ないけど、ちゃんとやってるの?"
「もうアラサーなんだよ?大丈夫だって」
ドレッサーの上に置き去りにしていた手鏡を手に、再度ベッドの上に座を組んで。
定期的に問われる同じ内容の母の台詞に、苦笑を零して応酬した。
"そうは言っても、心配なのよこっちは。結婚はどうするの?"
「(……、またそれか)」
"好美ー?"
「ああうん、はいはい」
手鏡に映る自分が、半分くらい化粧の落ちた状態で苦笑している。
この質問される度にこんな表情を晒していたんだろうな、恐らく。
「まあ、そのうちね」
そしてこの台詞を電話口に吐くのは、果たして何度目になるだろう。