未然見合い
"今、彼氏は?"
「………」
"いるの、いないの"
「…、…イマセン」
電話口向こうからは、"はあー"と大きい溜め息が零された。
これ見よがし、といった態度に思わず眉根を寄せる。
別にいいじゃない。今はバリバリ働く女でいたい気分なのよ!
メイクをたっぷりと吸い取ったシートをゴミ箱に向けてシュート。
音もなくその中に収まったそれを尻目に、今度は反撃に出るべく口を開いた。
「別にいいじゃん、今は――」
"今は、今はって。じゃあアンタの婚期はいつくるの?"
「…、母さん、しつこいよー…」
"しょうがないじゃない。心配なんだから"
散々仕事に振り回されて帰宅してから、彼女の小言を聞くのは耳が痛い。
言い合いをしていた所為で、折角襲ってきていた眠気も何処かに置いてきてしまったらしく。
紅茶でも淹れようと、下ろしていた腰を上げたその直後。
予期せぬ言葉が耳に入り、あたしは一連の動作を止めざるを得なくなった。
"好美、アンタお見合いしない?"
「……は?」