未然見合い





「わ、かったから…!早くお風呂!」

「うっそ、俺なんか臭う?」

「違うっての!」


息を吐く暇もなくその大きな腕に包まれて。

思わず一瞬息を詰めてからそう零せば、愕然とした表情で此方を見下ろす翔太の姿が。






臭う?そんな訳ないじゃない、取り越し苦労お疲れさま。

あたしはただ、前触れ無く翔太に触れられると暴れ回る自身の心臓にあたふたしただけ。



「ほら、早く」


それを口に出してしまうほど素直でも無ければ、こんなところでも如才無く済まそうとする自分にほとほと呆れたりもして。








「おー、わり。借りるな」


穏やかな微笑を混じて言葉を落とした翔太を前に、又もや早鐘を打ち始める心臓のなんと素直なこと。





中高生じゃ無いんだから、なんて胸中で呟いてみても。

どんなに抑え込もうとしても高鳴る胸は正直以外の何物でも無くて。







「うん」



綺麗な笑みを浮かべる自分を取り払って、素直に甘えられたら良いのに。

大人になるにつれて覚えてしまった特技とも言える自らの行動に、初めて嫌悪した瞬間だった。







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