未然見合い
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「(着いたは良いけど……)」
カジュアル過ぎない上着に、先日新調したばかりのスキニージーンズ。
足元には深みのあるブラックに一目惚れしたパンプスをチョイスして、長く伸びたヘアーは緩くサイドに纏めることで落ち着かせた。
そんなあたしが眉根を寄せながら見上げるのは翔太が勤務している会社のビルで。
「(重要な書類じゃなかったら蹴飛ばしてやる)」
早鐘を打つ心臓に向けて服越しにガッツを注入し、胸元に抱える書類を再度しっかりと握り締めた。
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「承りました。そちらにお掛けになってお待ちください」
「すみません、有難うございます」
笑みを刻んでそう口にする受付けの女性に促される様に辿り着いたソファーに腰を下ろした。
それと同時に自らのポケットに突っ込んでいた翔太のスマホを取り出し、隠すこともなく溜め息を吐き出す。
書類と電話どっちも忘れるなんて、どうなってるのよ一体。