未然見合い
と、そのとき。
「お困りですか?」
頭上から向けられた言葉は男性特有の低い声音で。
伏せていた顔を持ち上げて視線を合わせると、目の前で佇む男がにこやかに微笑む。
あたしは一瞬だけ開き掛けた口を閉じると、練り直した言葉を向けるべく再度口腔を開いた。
「お構いなく」
当たり障りの無い愛想笑いを浮かべてそんな台詞を吐き出せば、尚も眼前に構える男はゆるりと口角を持ち上げた。
そして、
「――翔太先輩ですよね?」
「………、」
「すみません、会話が聞こえてしまって」
嗚呼、受付けで話していたときのこと?
ちらりと視線を先程の女性に向けてみると、忙しなくこの男に目線を投げ掛けるその姿を認めて軽く納得した。
抜群に整っている容姿。
加えてその魅せ方を自らが最大限に理解している男。
今まで落としてきた女の数は底知れず。
口にせずとも雰囲気がそう物語っていて、この男性が四囲に放つそれは異彩なものだと直ぐに感じ取ることが出来るほどに。