未然見合い
――――と、
「待った」
柔に拘束された手首に、あたしは振り返ることを余儀無くされた。
思い切り眉間にシワを刻んで頭ひとつ分上にある翔太を睨め付ける。そんなあたしを数秒の間、無表情で見下ろした男はと言うと。
「なにを躊躇ってんだよ」
「っ、」
主語と脈絡に欠けた台詞で、あたしを根幹から揺さぶりかける。
一見なにを言っているのか分からない台詞。しかしながら、不思議なことにあたしは。
「好美」
―――きっと、否、十中八九。その言葉の真意というものに気付いてしまった。
結婚しても尚、翔太に全てを預けられていないこと。
何処かで足掻く自分が居る。自らの足で立てなくなったら終わりだと、決め付けてしまっているあたしが居る。
「お前のことは強いとこも弱いとこも含めて、全部受け止めるって言っただろ」
安いプライドだと思った。でも、それを捨ててしまったら今までのあたしの生き方を否定することになる。
ずっと分かってはいた。翔太があたしに向ける眼差しの中に、弱いあたしを求めるような感情が混じていることにも。
そしてあたし自身が、カッコ悪い自分を誰にも見せるまいと強がっていることにも。