恋の神様に受験合格祈願をしたら?

【side:日向にこ】

 昼休み。
 私とリカちゃんとハルちゃんは、3つの席をくっつけてお弁当を広げていた。
 私の楕円形なお弁当箱にはご飯が3分の1と、卵焼きにミニハンバーグが2つ。レタスの葉が仕切りのようにお弁当箱を横断し、昨日の残り物のゴボウと牛肉の煮物が、残りのスペースを埋めていた。
 リカちゃんは大きなおにぎり2つと、タッパに入った残り物というおでん。別にカットされたリンゴが2つ。
 リカちゃんの家は男兄弟が多いから、いつもお弁当は豪快だ。
 ハルちゃんは2段のランチボックス。
 1段目と2段目の半分まで、サンドイッチで埋まっている。端には、ポテトサラダとミニトマトが入っていた。
「これが、かの有名な『パンダ』ってヤツね」
 リカちゃんはクラスメイト以外の人間が立ち替わりで覗いてくるドアを、箸でさした。
「女子が8割から9割ってとこかしら」
 ハルちゃんが、ハムとチーズのサンドイッチをパクリと齧る。
 味が染みて色が変わっている大根を、リカちゃんが真っ二つにした。
「個性バラバラのイケメンに、美女が1人の逆ハーレム生徒会。そこに、お手伝いとして小動物系の可愛い女の子が1人緊急追加。しかも、良いパパさんになりそうなイケメン会長の指示と、途中からずっとニコの手を繋いでた優等生風のイケメンな副会長のダブルでお願いされてだもんね。メガネ美人さんはニコに考える時間を与えるよう私たちの味方をしてくれたけど、後のクールで電柱みたいなイケメンと、小さすぎるのが残念な活発そうなガキ風のイケメンと、顔立ちが整った秀才風で当たり障りのなさそうな書記は、簡単に『任せます』『賛成』『いいんじゃないですか?』って任せっきりでさあ。あの集団、メガネ美人以外、自分たちの存在に無頓着すぎるんじゃないの? 少し考えれば、こうなることは予測できるじゃん。ああ~っ! 今思い出してもムカつくわ」
 リカちゃんがイライラを解消するかのように、さらに大根を刻んでいく。
「食べ終わったらさ、紅茶飲もうよ。インスタントでよければ、ここにレモンティーの温かいのがあるからね」
 ハルちゃんが、机の端に置いていた水筒の頭に触れた。
「ニコさあ」
 リカちゃんが、ジッと私の顔を見つめだした。
 卵焼きを食べようと口を開いた私は、言いたいことがありそうなリカちゃんの言葉を待って、卵焼きをお弁当に戻した。
「あの恩人、菅野先輩だっけ? あの人、絶対アンタに気があるよ。泣いたアンタを見て、惚れたんじゃない?」
 リカちゃんの突拍子もない発言に、私はお弁当箱をひっくり返しそうになった。
 あんなに優しくてカッコよくて、生徒会副会長で、性格はもちろんだけど、頭もきっといいはずな菅野さんが、私に惚れるなんて絶対にない!
 ありえない。
 想像ができない。
 リカちゃんにそんな妄想をさせたなんて、菅野さんに申し訳なさすぎる!
「そんなの絶対にないよ! だって見たでしょう? あの完璧っぷり。雲の上の存在だよ。本当なら、私と会話していいはずない存在だよ。絶対にモテモテだよ。彼女いるよ」
「ニコ、動揺しすぎ」
 ハルちゃんは溜め息をつくと、片手を軽く上げた。
「アタシも、リカの意見に1票」
「ちょっと待ってよ! 冷静になってよ。冗談でも言っちゃダメだって。絶対にないから」
 私はブルブルと首を振った。
 リカちゃんやハルちゃんなら全然ありだけど、こんな私が菅野さんに思われてるなんて、誤解でもおこがましいよ。
「アタシが男なら、小学生のとき、同じクラスになった時点でニコに告白して、絶対両思いに持ち込んだけどなあ」
 おっとりなのは外見だけなハルちゃんの男前発言に続き、
「どっちにしても、ニコを選ぶってとこが趣味いいよ。そことイケメンなとこだけは認める」
 リカちゃんが1人ウンウン頷きながら、ようやく大根を口に運んだ。
「そこは趣味悪いだよ。見てわかるじゃん。私が鈍臭いの」
 私は突っ伏したいのを堪えると、再び卵焼きを箸でつまみあげた。
「いつも言ってるけど、ニコは自分を過小評価しすぎ。地味な作業に関しては、アンタほど真面目で戦力になる子なんていないから」
 断言するリカちゃんは、いつだって私を過大評価しすぎる。
「そうだよね。ニコはコツコツやるタイプだから、遊んだりしてサボらないし、イケメンに色目使ったり、ボーッと見惚れたりして作業が手につかなくなるような責任感のない子じゃないし。お手伝いとしては、最高の人選よね」
 ハルちゃんも私にとても甘い。
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