恋の神様に受験合格祈願をしたら？

「どうしよう。ニコに何かあったらアタシ……」
　見崎ちゃんは両手を強く握ると、震えながら俯いた。髪が顔の両サイドに垂れて、顔が隠れる。
　わざわざ顔を見なくても、どんな表情をしているか簡単に想像がつく。
　俺と同じだ。
「２人が視聴覚室を出たとき、ニコちゃんの姿は？」
「なかったです。だから、すぐそばの階段をおりだんだと思って駆け下りたんです。けど、全然姿が見えなくて……」
「自分を責めるのも、悲観するのも後だ。まだニコちゃんに何かあったと決まってないし、そうだとしてもさっきまで一緒だったんだ。まだ間に合う」
　俺は心を強く持つよう、見崎ちゃんの両肩を掴んだ。
「俺、体育館とこ行ってくるわ」
　俺の声に、弾かれたように見崎ちゃんが顔をあげた。
「お願いします」
　不安で揺らいだ意志がしっかりと定まったのだろう。見崎ちゃんの目には強い力が宿っていた。
　この子も谷地ちゃんも、本当にいい子だ。弱さをどうカバーするか、どう強く見せるか、その方法を知っている。
　けど、大切なものが危険にさらされた途端、その強さは脆く崩れる。
　そういうときこそ、崩れちゃいけない。
　崩れていいのは安堵したときだけだ。
　廊下を誰かが走る音が聞こえる。
　見崎ちゃんを置いて、俺は振り返った。
「こっちにもいない！」
　大きく肩を上下させながら息をする谷地ちゃんが、力尽きたように両腿に手をあてて上体を倒した。
「視聴覚室に戻ってるかも。一度連絡入れるぞ」
　俺はジャケットのポケットからケータイを取りだし、登録されたリューイチのケータイに電話をかけた。