恋の神様に受験合格祈願をしたら?
「それ、美味しい?」
 片付けが済んだ俺は、南波先生が用意した紙コップを持ってニコちゃんの隣に座った。
「とっても美味しいです」
 ニコちゃんが、名前と同じニコニコ顔をした。
 俺はぬるくなったそれを一口飲んだ。
 俺には甘すぎるな。
 けど、これがニコちゃんの好きな味なんだな。
 果汁感があって、香りにだけ僅かな酸味を残し、甘くてコクのある味が好きってことか。
 こうして、好きな人のことを知る。
 それが些細なことでも、胸をあたたかくする。
 こんな幸せもあるんだな。
 ニコちゃんに出会うまで、知らなかった。
「味、合いませんでしたか?」
 黙り込んだ俺を、ニコちゃんが不安そうに見上げてきた。
 不安にさせてゴメン。
 けど、俺のせいでそういう顔をしてくれるのがメチャクチャ嬉しい。
 恋って魔物だ。
 好きな人が自分のために一喜一憂してくれるのが、嬉しくてたまらない。
 もっともっと俺のことを考えさせたくなる。
 俺のことで頭をいっぱいにさせたくなる。
「美味しいよ。ニコちゃんはこういう味が好きなんだなと思ってさ。仁美ちゃんもこういう感じの好きだから、いい店がないか訊いてみて、いいところがあったら今度一緒に行こうか」
「みんなとですね。楽しみです」
 ニコちゃんの純粋な笑顔に、俺は『2人でのつもりだったんだけどな~』と、自分の言い方を悔いた。
 ニコちゃんに遠回しは通じない。
 すべては直球ストレート勝負。
 けど、ただ『可愛い』や『好き』を連発すればいいものじゃない。
 それじゃ、いつもと変わらない。
 可愛いや好きにも色々種類がある。
 的確に伝えないと、控えめで自己評価が極端に低いニコちゃんにはすべてかわされてしまう。
 俺は決めたんだ。
 ニコちゃんに告白するって。
 2人きりになれるチャンスはなかなかない。
 するなら今だ。
 俺は自分に言い聞かせた。
 緊張で口が乾く。
 俺はゆず茶を一気にあおった。
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