【愛したがりやのリリー】




「日直の仕事ですか?」

「あ、うん」


 木崎くんは目を逸らし、あたしの腕の中からするりと地図を取り上げた。

 それがあまりにも自然な動きだったから、あたしが遠慮する前に腕の中には一枚の地図しか残らなかった。


「木崎くんいいよ、あたしの仕事だから」


 階段をさっさと上りだす背中を呼び止めても、

「2人でやった方が早いですから」

 などとあっさり躱されてしまう。

 結局あたしは流される形となり、木崎くんの後を追った。

 持ちにくい地図を何でもないかのように持って、長いコンパスで先を行く背中。


 木崎くんには、あんまり近寄りたくなかった。

 1年の時は違うクラスだったから、噂に聞くだけ、たまに見かけるだけの存在で。

 同じクラスになって彼を間近に見知って、彼には近付きたくないと思った。

 重なるから。

 今だってほら、あたしの記憶に重なって。

 だから、近寄りたくなかったのに。

 この記憶は全部全部あたしだけのもので、誰にも重なってほしくないのに。

 あたしの大事なものに、勝手に入り込まないで。

 胸の奥が痛くて、堪えるために少し唇を噛んだ。


「資料室の鍵、持ってますか?」


 いつのまにか俯いていた顔を上げると、木崎くんは既に少し先の資料室の前に着いていた。


「あ、うん」


 小走りで近寄って、ポケットから素っ気ない鍵を取り出す。

 差し出された掌にそれを乗せて、資料室の鍵を開けてもらった。





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