【愛したがりやのリリー】
久しぶりに入る資料室は埃っぽくて、朱い光に照らされた教材は時が止まったようだった。
「地図ってどこに入ってたんだろね?」
「さぁ……」
2人できょろきょろと見渡すが、どれも同じに見えてしまってよくわからない。
中に入って、ウィンドウショッピングみたいに見て回る。
部屋の隅にある、似たような筒が何本か立ててある傘立てが目に入った。
近寄って筒の中を覗いたら、見にくかったけど予想通り地図だった。
「ありましたか?」
「ひょわっ!?」
違うところを探していたはずなのに、いつのまにか木崎くんは背後にいた。
でも驚いたからって今の叫び声は有り得ないよねあたし……!?
反射で叫んで、考える前に両手が勝手に動いて口を塞いでいた。
考えることをしなかったから、持っていた地図が腕から滑り落ちて。
足の甲に直撃した。
「〜〜〜っ!」
たかだか紙が筒になっただけなのに、上履きに守られていない部分に当たったそれは予想外にかなり痛い。
紙の塊は凶器になることを、身をもって体験させていただいた。
「大丈夫ですか? 驚かせてすみません」
痛みに耐えるあたしの体を支えるように木崎くんの腕が肩に回され、落とした地図は床に寝転がっていた。
その場で痛みに耐えかねて座り込まなかっただけましだと思う。
あたしがそうやって地味に痛みと戦ってる間に、すぐ後ろの机にあたしをもたれさせ地図を拾って収納場所に戻してしまった木崎くんは、すごいというかなんというか。
痛みが大分引いて周りに注意を向けれるようになった頃、すでに木崎くんはすべてを終えて隣に寄り添って、あたしの頭でぽんぽんと子供をあやすようなリズムをとっていた。
そのリズムは妙に心地よくて、頭にかかる重みや大きさは大好きなお兄ちゃんを思い出させて。
僅かに残っていた痛みの欠片も、ゆっくり溶けていく。
「……木崎くん、ありがと。もう大丈夫だから」
離れるのが名残惜しくなる前に、記憶と重なって幻を見る前に離れた。
「そうですか。では出ましょうか」