【愛したがりやのリリー】
「あっあの、木崎くんのことが、ずっと好きでした」
繊細な睫毛に縁取られた瞳の表面を覆う、不安と緊張の膜。
「それで……その、もし木崎くんがよかったら、付き合ってもらえませんか……?」
その奥から溢れ出るような、強く確かなかたちを持った僕を好きだという彼女の気持ち。
真っすぐ僕を見て気持ちを伝えてくれる彼女の目を、正面から受けとめることはできなかった。
これからその気持ちを粉々に打ち砕く僕には眩しすぎた。
少し俯き目を逸らし、息を吸って覚悟を決めてから彼女の目を見る。
「ありがとうごさいます……でも、申し訳ありません。お付き合いすることは、出来ません」
努めて冷静な声で言い、深く深く頭を下げる。
彼女の気持ちを粉々に打ち砕く僕の、これが精一杯の誠実だった。
息遣いさえも聞こえるくらいの沈黙の中、僕は頭を下げたままだった。
どれくらいそうしていただろうか。
微かに鼻をすする音がして、僕はゆっくり顔を上げた。
「ごめんなさい……木崎くんが断るのはわかってたんだけど、気持ちだけは伝えたくて……」
小さく言葉を紡ぐ彼女の目は既に決壊していて、朱に染まった頬を透明な涙があとからあとから伝い落ちていく。
その姿はとてもきれいで、ひどく哀しかった。
そして彼女にこんな風にしかしてあげられない自分が、嫌だった。
「勝手なお願いに、付き合ってくれて、ありがと……っ」
震える声で言葉を続け、頬を流れる涙を袖口で拭い去っていく。
彼女のその姿を見てたら、手が自然と動いてハンカチを差し出していた。
「いっ、いよっ。わるっ、からっ……」
本格的にしゃくり上げ始めた彼女は頑として受け取らず、袖で乱暴に涙を拭き取りだした。
「使ってください。……使ったら、捨ててくれていいですから」
傷つけることしか出来ない自分なんか、嫌いになってくれていい。
彼女が二度と思い出さないように、少しでも気に病むことのないように。