【愛したがりやのリリー】
I
退屈な数学の時間、冬のやわらかな午後の陽射しがあたしを夢の世界に誘った。
夢の中のあたしは、小学校に入るか入らないかくらいの年の頃になっていた。
周りには見知った顔の大人たちと従兄弟たち。
その人たちに囲まれて、あたしはお兄ちゃんにしがみつき、小さくとも頼もしい背中の後ろで震えていた。
従兄弟の中で一番年若く極度の人見知りだったあたしには、年上の従兄弟たちが怖くて怖くて堪らなかった。
同年代でも一、二位を争うほど小さかったあたしにとって、年上の従兄弟たちに見下ろされるだけで威圧感があったから。
頭上に降ってくる、声変わりの途中の太くて低い声も。
低く地を這うような、地獄の閻魔様の怒鳴り声に聞こえたのだ。
背中で怯えるあたしをお兄ちゃんは優しく抱き締めて、呪文のように言い続けていた。
大丈夫、怖いものなんて何もないよ。
守ってあげるから、と。
だいすきなお兄ちゃんの腕の中で、あたしは何とも言えない安心感を得ていた。
絶対的に信頼できるお兄ちゃんは、何者にも勝る存在だった。
そして心地よい腕の中で、あたしはお兄ちゃん以上にすきになれる人はいないのだと、幼心に思ったのだ。
今もその気持ちは変わらない。
これが幼なじみなら、きっとそれは恋なんだと一言で片付いたはず。
でも、あたしたちは兄妹だから。
戸籍を確かめるまでもなく、明らかに血の繋がった兄妹だ。
だから、この気持ちを恋と呼んではいけないことを、あたしは知っている。
これはそう、きっと家族愛なのだ。
血が繋がった兄妹。
ただ、それだけ。
あたしがお兄ちゃんをだいすきなだけ。
ただ、それだけ。
たったそれだけのことが、どうしていけないことなの?