【愛したがりやのリリー】
「きりぃーつ」
男子の間延びした号令で、あたしは目を覚ました。
浅くだが長時間眠っていたと、自分でもわかるくらいだ。
ぺこ、と号令に合わせて形だけの礼をして、すぐに腰を下ろす。
だいすきで、だいきらいな夢だったな。
寝ていたときと同じように肘をつき、掌の中に頬を収める。
窓の向こうから降り注ぐ陽射しは少し色が変わったものの、相変わらずやわらかい。
心地よい陽光を浴び、再び目を閉じた。
途端に、教室のざわめきがガラス一枚隔てたように遠く不明瞭になる。
抗いがたい眠気の波に足元から攫われかけた瞬間。
「さぁーかきーぃ」
不意にクリアな声がして、重たくなった目蓋を押し上げたら目の前にやわらかく笑うクラスメイトがいた。
「……わか、みにゃ」
眼前の切れ長の瞳が、少し大きくなる。
「わかみにゃ……寝呆けてんの?」
堪えることなく吹き出され、霞みがかった頭で笑われた理由を探すがよくわからない。
机に両腕を置き、その上に突っ伏すようにして笑っている。
ふわり、ふわり、と肩が震えるのに合わせて髪が揺れる。
少し赤みを帯びはじめた陽光を浴びる色素の薄い髪は蜂蜜色になって、輪郭が光に包まれて滲んでいた。
覚醒していない頭でぼんやり、揺れる髪を追う。
空気との境目が曖昧になった髪に指先を触れさせ、確かに存在することを確かめた。
このままふわりと、光のなかに消えてしまう気がしたのだ。
「ホントに寝呆けてんのな。――――だよ」
髪に触れる指先を絡め取られるように手を取られる。
「榊、起きろって。あとホームルームしたら終わるから、それまで頑張れ」
「やだ……眠い……」
「我儘言うなー。ほら、先生来たし」
掴まれた手で自分の頭を叩かされ、少し眠気以外の感情が芽生えはじめたところで先生が来た。
「目ぇ、覚めたか?」
「うん……まぁ」
「じゃ、あとで」
ぽん、と頭に手を一度置いて、若宮は軽やかに自席に戻っていった。