【愛したがりやのリリー】
「うー、寒い」
眠気を教室に置いてきたあたしは、髪を巻き込むのもお構いなしに首にぐるぐるとマフラーを巻いて、校舎裏に向かって歩いていた。
「まぁ冬だからなー」
隣を歩くのは、同じく首にぐるぐるとモノクロのマフラーを巻いた若宮。
席の関係上同じ掃除の班になって、ジャンケンで校舎裏担当のペアになった。
他の班員は暖房の効いた教室でぬくぬくと掃除をしていることを考えると、勝負弱さを恨まずにはいられない。
あたしではなくて、ペア代表としてジャンケンした若宮の。
少し恨みをこめて若宮を見上げれば、鼻から下をマフラーの下に潜り込ませ、隙間から蒸籠(セイロ)みたいに白い息を洩らしている。
その様子は少し面白くて、あたしは少し恨みを忘れた。
「ぬぁーに人のコト見てニヤニヤしてんだよ」
マフラーに遮られて少し籠もった声に合わせて、隙間から湯気が出る。
いよいよ面白くなったあたしは、本人を目の前に盛大に吹き出すのも可哀想なのであえて顔を逸らし、
「べっつにー」
と答えながらも、堪えきれない笑いが込み上げてきて、肩を震わせた。
「めっちゃ笑っとるしー。デリケートな硝子のロンリーハートの持ち主になんて酷い仕打ちを!」
「どこがデリケートな硝子のロンリーハートの持ち主なのよ」
大仰に言う若宮は何だか可笑しくて、あたしは冷たく突っ込みを入れながらも口角が上方向に痙攣するのを抑えられなかった。
若宮を見たら本格的に笑い出してしまいそうで、顔を逸らしたまま若宮の顔が見れない。
ざくざくと音を立てる二人分の足が規則正しく動くのを代わりに見ていた。
「え、見てわかんない?」
「全っ然。これっぽっちもわかんない」
「榊は見る目ないなー。ほら、こっち見てみ」
「なに……」
ぷちん、という音と木の葉の擦れる音がした若宮の方に顔を向けた。
顔を上げた先には、頬に触れる若宮の人差し指といたずらっ子のような笑みを湛(タタ)えた顔。