【愛したがりやのリリー】
「ひっかかったー」
頬に当たった指のことだと気付いたが、若宮の楽しげな様子に怒る気も失せる。
「もー、何がしたいの」
「んー? そうだ、これやるよ」
答えを貰う前に促されて両手を差し出すと、乗せられたのは丸く堅い植物の実のようなものだった。
ころりとしたそれはビー玉ほどの大きさで、キャベツのように薄い葉が中央のなにかを隠すように四方から丸く堅く覆っている。
緑から黄緑色へとなっている薄い葉のグラデーションの先端、涙型の尖っている方の頭が桃色に色付いている。
「なに、これ?」
竹箒の入っている倉庫を漁る若宮の背に問う。
「そこの花の蕾」
ぞんざいに指差されたそれは、冬でも艶のある深緑の葉を散らさない椿の木だった。
「えっ、蕾なんてつんじゃいけないでしょ」
「ちょっとくらいわからんわからん。ほら、箒」
差し出された竹箒を、掌中の椿の蕾を落とさないようにしながら受け取る。
そのままつるつるに研かれた柄の部分を肩に立て掛けるようにして腕で押さえて、椿の蕾をじっくり観察する。
蕾だから、まだ燃えるような赤ではなく可愛らしい桃色なのかな。
この堅さからいって、キャベツのように中はぎっしりと詰まっているのかもしれない。
「ちっこい時、椿の蕾で遊ばなかった?」
「ううん」
この小さく堅い蕾をどのように使って遊ぶのだろう。
小さなそれを見ても、誰かに投げ付けるくらいしか思いつかなかった。
早々に考えるのを放棄して、あたしは掃除を始めることにした。
だって寒いし。お兄ちゃんのお迎えも行きたいし。
「若宮、早く掃除して教室行こうよ」
椿の蕾を緩く着たカーディガンのポケットに滑り込ませ、竹箒を持ち直す。
「んー」
若宮を見れば、先程のあたしみたいに竹箒の柄を肩に立て掛け、蕾に爪を立てている。
適当にあたしをあしらって、若宮は爪を立て蕾を剥いていく。