【愛したがりやのリリー】
「……誰にでも、言えない事があると、思います。ですが……努力します」
信頼していないわけではないし、信用していないわけではない。
けれど、線を引いてしまう。
そういう性分なのだから、仕方がないし、十分自覚はあるから直そうと思ったが、全然直らなかった。
世界は僕を、『一人で大丈夫な人間』に仕立てあげてしまっていたから。
今更他人に頼るなんて、したくても出来なかった。
誰も、させてくれなかった。
「隣にいるんだからたまには愚痴ってくれると嬉しいなー、なんて俺は思うわけですよ」
にやり、三日月のように口端を上げる若。
その身に纏う空気は普段と変わりなく、先刻の言い争いは幻だったのかと思うくらいだ。
ざかざかと大雑把に竹箒で辺りを掃く若を見ていると、地面を斑にする小さな水玉を目の粗い竹箒で一生懸命集める自分が阿呆らしくなってくる。
けれど阿呆らしいからといって簡単にやめてしまえる性分ではなくて、むしろ中途半端にやり残してしまうのは気持ち悪い。
若のように生きられたのなら、少しはこの世界も生きやすくなるだろうか。
心の澱(オリ)を吐き出したくて、先程の薬罐を真似て灰色の空へ息を吐く。
綿飴のように白い息が澱を含んでいるとは思えず、白いそれが冷たい空気に消えるのを待つ。
言葉にして出してしまえば、きっと楽なのだろう。
でも、言葉にならなかった。
長い間言葉にしないで閉じ込めてきたその想いは、言葉にするのが難しい。
榊のように、明確な言葉に出来たなら、若は聞いてくれるだろうか。
告白とも懺悔とも言える、この澱を。
「木崎、掃除終わった?」
いつの間にかちりとりを持ってきていた若が、適当に集めて小山になった落ち葉の横に立っていた。
「すいません、あと少し」
誰かの涙の跡のような丸いそれを、痕跡を消すように少し荒く掃き去る。
砂に紛れてしまったそれは、そのまま朽ち果ててしまうか、風が揺り起こすまで見つかることはないだろう。