【愛したがりやのリリー】
「よーし、掃除終わりっ。木崎ありがとな」
少しの砂とともに、若は最後の一枚をちりとりに掃き入れる。
憂いももやもやしたものも全部一緒に、ちりとりの中へ捨ててしまったようだ。
「そもそも若のせいですよ。僕は当番ではないのに」
倉庫に向かいながら、溜息混じりに小言を若に言ってみた。
それは冷たい空気と相まって耳と痛いところを刺したらしく、若は罰が悪そうに顔を顰(シカ)める。
「それは悪かったって反省してる。木崎の当番の時に俺と榊でやるからさ、それでチャラな?」
顔前に片手を立て、口よりも雄弁な目で頼み込んでくる。
その様子にそれ以上小言を言うのは止めたが、今回のこの出来事は明らかに若の落ち度だと思った。
同じ内容でも、言い方と言葉遣いによっては、相手を怒らせることも黙らせることも、理性的に納得させることも出来る。
もっと違った言い方があっただろうに、若はあえてストレートな、今後にも響くような言い方を選んだ。
何か考えがあるのだろうが、摩擦を起こすそれはあまり好ましくない。
けれどそこまで説明する気にはなれなくて、簡単な言葉だけが口から零れ落ちた。
「……若が一人でやるべきだと思いますが。お節介したからでしょう、この結果は」
「お節介の半分は親切で出来ています」
「残りはどうなんですか?」
「あえて聞くな。スルーしろ、スルー」
「いえ、あえて聞かせてもらいます。巻き込んだお詫びに、ということで」
「融通きかないな、全く。残りの半分は、そうだな……」
竹箒を僕の手から受け取り、倉庫に半身を突っ込みながら言葉を濁らせる。
「榊への期待と、自分への歯痒さと喝……とでも言っとく」
その言葉に、若も彼女と同様、家族に恋愛感情を持っているのかと疑う。
「若は姉妹いませんよね?」
「いないけど、まぁ、不毛なもんはしちゃってるからさ」
マフラーを引き上げ顔を埋め、寒いと呟く若。
胸の奥底まで冷えきる気がして、今にも落ちてきそうな鼠色の雲を仰ぎ、僕もマフラーを引き上げた。