【愛したがりやのリリー】
家から歩いて15分のところにある駅に着く頃には、雪はずいぶん大粒になっていた。
ガードレールの上にうっすらと積もった雪を横目に、あたしはモモと駅に入った。
ちょうど電車が着いたようで、高架のホームからは沢山の人の足音が降ってくる。
改札を真正面から一望でき、尚且つ雪や風がこない壁ぎわであたしはモモと寄り添って待った。
くたびれたコートを着込んだおじさんや、マフラーを首にぐるぐる巻きにしてる学生なんかが、皆一様に白い息を吐き、急ぎ足で改札から出てくる。
沢山の頭の中から少し飛び出た頭を見付ければ、大方お兄ちゃんだ。
あたしは改札には近寄らず、モモと並んでお兄ちゃんが改札を抜けるのを待った。
モモはお兄ちゃんが匂いでわかるのか、ふぁさふぁさと尻尾を揺らしている。
改札を通り抜けた姿を確認すると尻尾の揺れは激しくなって、その素直な感情表現が羨ましくもある。
お兄ちゃんは改札を抜けてから真っすぐにあたしたちのところに来てくれた。
「沙結梨」
形のよい唇が、やさしい声が、あたしの名前を呼んでくれる。
「おかえり、お兄ちゃん」
「毎日お迎えありがと。今日は雪降ってるから助かったよ」
大きな手で小さな子みたいに頭を撫でられる。
お兄ちゃんはよく、こうやってあたしを子供扱いする。
それが寂しくもあり、嬉しくもある。
「でしょ?」
「でも、モモがいるからって真っ暗になってから外に出るのはやめときなよ」
あたしから傘を受け取りながら、お兄ちゃんは眉を顰(ヒソ)める。
……そんな顔も格好良いなんて、ずるい。
「あたしは大丈夫だもん。寒いし早く帰ろっ?」
冷たい空気が入らないように腕を絡ませぴったりくっつく。
「そうだな、モモも足冷たくないか?」
モモが大きく尻尾を振るのを見届けてから、大きな深緑の傘に一緒に入って駅を後にした。