【愛したがりやのリリー】
兄を避け、一直線に階段へ向かい、音を立てないように自室へ飛び込む。
静かにドアを閉め、暗く冷えきった部屋でひとりになると、悲しいと同時にひどく落ち着く自分がいた。
いつも、僕はのけ者だった。
最初に自分がいらないのだと気付いたのは、幼稚園に入った頃のように思う。
幼稚園に入る前は、幼稚園に隣の女の子と仲良く通園する兄が、羨ましくてたまらなかった。
やっと僕が幼稚園に入れる年になると同時に、兄たちは卒園した。
ぴかぴかのランドセルを背負って登校する兄たちを三年間、黄色い斜め掛けの鞄に水色のスモッグを着て、ただただ指をくわえて見ていた。
喉から手が出るほど欲しがったものは、手に入れた瞬間に魅力を失いガラクタとなる。
兄たちと同じ場所にいたい。
ただそれだけだった。
しかし三歳の差は、子供時代には大きすぎる差だった。
遊ぶときも、僕に合わせると退屈で、兄たちに合わせると僕がわからなくて。
どちらかが妥協すれば、楽しくない遊びになる。
僕と兄たちの間には、絶対に越えられない三年という壁があった。
それでも兄たちの後ろにくっついていた僕は、きっと二人にとっては邪魔者だったに違いない。
何故ならば、兄と潤さんは、二人で世界が完結していた。
二人だけの閉じた世界。
間に入り込む余地はなく、閉じた世界の中、二人は二人だけで、幸せそうに二人きりの世界を創り上げていた。
誰も彼も、もちろん僕も例外なく排除された、スノードームのような世界。
美しく、きれいで、観るだけで誰にも手が出せない、それでいて互いがいないと成り立たない世界だった。
そんな世界を、僕は外から指をくわえて眺めるだけで、一緒に中には入れてもらえない。
だから兄たちに追い付きたくて、必死に誰よりも大人になろうとした。
言葉遣いや態度、勉強や運動、全て頑張った。
だが、それでも駄目だった。
球体の硝子の中、絶対的に外界との接触を断った小さな世界で寄り添う二人へ、懸命に叫んでも声は届かない。
虚しく水が、僅かに揺れるだけ。