【愛したがりやのリリー】
「うー、寒かった」
傘と体、あとはモモに積もった雪を振り落とす前に落としてあげてから玄関の戸をくぐる。
「だったら毎日お迎えしなくてもいいのに」
カバンに付いた雪を外で落としてから、お兄ちゃんが続いて入ってくる。
「モモと散歩したいから行くんだもん。冬は特に動かなきゃ太っちゃうしー」
つい口から出るのは、可愛くない強がりばかりで。
わしわしとタオルでモモを拭いて、肉球の隙間まで綺麗にしてあげながら、心の中では溜息の嵐。
「沙結梨十分細いじゃん。痩せる必要ないだろ」
外気で冷やされた眼鏡が玄関の暖かさで曇ったらしく、お兄ちゃんは服よりも先に眼鏡を拭いている。
「女の子の変身願望は尽きないの」
あぁ、また。
あたしって可愛くない。
変わるなら、外見よりも内面の方が急を要するかもしれない。
「そんなものかぁ。なんにせよありがとな」
お兄ちゃんはそんなあたしの強がりなんかお見通しというように、ふわりとやわらかく微笑み、頭にぽんっと手を置いてから階段を上っていった。
前脚の肉球を拭く手が止まり、モモが不思議そうに首を傾げる。
階段を上る足音が消えるまで、止まったまま見送った。
クゥンと鼻をならし、温かな息が近付いてくる。
あたしはそのぬくもりに縋るように、モモを抱き締めた。
「……っ」
抱き締める腕に力をこめる。
誰にも顔を見られたくなくて。
黄金の毛並みに顔を埋め、身体の中に溜まった熱い息を吐いた。