【愛したがりやのリリー】




 昨日あんなに降った雪は、夜のうちに溶けてしまっていた。

 朝起きたら雪はどこにも見当たらなくて、駅に行くまでの間も、お兄ちゃんと乗った満員電車の中からもあたしは雪がどこかに残ってないか探したけれど、一欠片さえ見付からなかった。

 息はこんなに白いのに、肌が痛いくらい空気が冷たいのに。

 真っ白とまでは行かないまでも、雪に覆われたいつもと違う街の景色を期待していたのに、どこに行ってしまったのだろう。

 残念な気持ちのまま校内でお兄ちゃんと別れて、違う校舎にある教室に行ったら、既に沢山いるクラスメイトの中に友人たちのグループもあった。

 こんな寒い日でも元気よくお喋りに花を咲かせているようだ。

 近付いて笑顔で挨拶して、あたしもお喋りの花畑に加わらせてもらった。


「さゆ、今日日直じゃなかった?」

「あ、そうかも。そうだったっけ?」

「昨日斎藤くんだったから、今日はさゆでしょ」


 黒板の右端、今日の日付の下の日直のスペースに、確かに自分の名字が書いてあった。


「ほんとだ」

「やっぱり忘れてたんだ。あっそうだ、さゆ聞いた?」


 きゃっきゃと姦(カシマ)しいくらいであった友人が、急に声を潜める。





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