【愛したがりやのリリー】
「何を?」
手招く左側の友人の口元に顔を寄せる。
「木崎(キサキ)くん、また告ってきた子フったんだって」
小さな声で重大な秘密のように耳打ちされたが、彼女は一体毎度どこからひと足早く情報を手に入れるのだろう。
また、それが大体正確だから謎は深まるばかりだ。
「またぁ?」
「これで2学期に入って3人……いや、4人目かな」
「理想が高いのかストイックなのか女嫌いなのか……謎だよねぇ」
ふぅ、と物憂げに吐息をつく右側で座ったままの友人。
その吐息は淡い好意と思考に疲れたときのもののどちらなのだろう、と頭の片隅で思った。
違う話題に水を向ける友人たちを横目に、噂の中心人物である木崎くんを見てみると、彼もまた楽しげに友人と喋っている。
まるで夜の森のように深いが僅かに光を透かすセルフレームの深緑色が、滑らかな頬に影をつくる。
笑いで細められた目は、普段は大きめだけど切れ長で。
髪型はあくまで自然にセットされていて、ふわりと空気を含んだ髪は毛先がときどき跳ねている。
整った顔立ち、男女分け隔てないやわらかで丁寧な物腰、なんでもそつなくこなすその能力。
そこに人望まで加われば、そりゃ女子から熱い視線がたっぷり送られることだろう。
……まぁ、あたしはそんなに親しくないし、ただのクラスメイトでしかないのだけど。
あんなにいい人なのに、なんで告白してくる女の子たちを全員拒絶し続けているんだろう。
あたしは小さな疑問を残したまま木崎くんから目を逸らすと、友人たちと一緒に予鈴が鳴るまで話に花を咲かせた。