【愛したがりやのリリー】
本日最後の授業が終わり、あたしは号令をかける。
日誌を書いて、早く帰ろう。
今晩はお迎えに行くときに雪が降らないといいな、なんて他愛もないことを考えていた。
「日直、これ資料室に返しといてくれ」
……と先生に言われたりしちゃったら、善良な生徒のあたしは逆らえない。
「はぁい」
気怠い返事をし、鍵とともに先生から筒状にされた大きな地図を3枚受け取った。
担任による短いHRを済ませ、みんなが部活や掃除や帰宅する中、あたしは荷物を全部置いて資料室に向かった。
斜めに持った地図は強く抱くと折れるし、かといって腕を緩めると腕から抜け落ちる。
嵩張るそれを折ったり落としたりしないように、自然と足取りも慎重になる。
人よりだいぶ遅い速さであたしは資料室のある特別棟を目指した。
一度1階まで下り、渡り廊下を経由し、途中お兄ちゃんのいる3年用の校舎を通り抜けて、4階分の階段を上ったところに資料室はある。
特別棟に着く頃にはどのクラスも掃除を終えたみたいで、部活の元気な掛け声が冷たい風に乗って聞こえてきた。
しん、と人気のない特別棟の階段を上り、あと1階分上れば辿り着くところまできた。
頑張れ自分、なんて心の中で自分を応援したりなんかして、階段に足をかけたところであたしは止まった。
誰もいないはずの上から、かすかにだけど確かに人の声がした。
上には確か、資料室だけがあるはずで。
この時間、教師だって資料室には用事がないはずだ。
あたしは行こうか行くまいか悩み、二の足を踏む。
もしもの話、声の主が幽霊とかオバケだったりしたら泣きそうだし。
逆に人だったとして、こんな時間にこんな人気のない場所でやってることなんて、怪しすぎる。胡散臭すぎる。
あたしがそうやって階段の先を睨んだまま止まっていたら、不意に足音が響いた。
やっぱり人間だったよかった、と思ったのも束の間、何故かこっちに近づいてくる足音。
うそっ、こっちくる……!