最低な君は、今日も「大嫌い」を口にする
「いちのせくん…」
「うん、何してんの?」
にっこりと笑う市ノ瀬くんはゆっくりと近づいてきた。
ズボンのポケットに手を突っ込んだまま、着実に私との距離を縮めてくる。
「たみやさ、」
「この人は?友達?」
息もつかせないような質問の連続に、私の息が少しずつ乱れる。
「おい、待てって…
田宮さんなんか様子がおかしい」
「8組の…千藤君だよね?バスケ部の」
「なんで知ってんの」
「有名じゃん、次期エースでしょ?」
じわじわと、外堀を固められている気がした。
市ノ瀬君に、囲まれてしまう。
悲鳴をあげそうになった口を震える手で押さえた時、
大きな手が私の両手を包んだ。
「…何してんの?」
「いやこれ様子おかしいだろ、調子悪いんだよな?
俺家まで送ってくから。
田宮さん歩ける?」
そう言って私の肩に腕を回した千藤君は市ノ瀬君を見ようともせず歩き出す。
怖いくらい黙ったままの市ノ瀬君をちらりと見ると、色素の薄い二つの目が此方をじっと見つめていて。
「…っ!!」
あまりの恐怖に息を飲んだ。
"どこへ行こうとおなじ、逃がさない"
そう、言われている気がして。
震える唇をぎゅっと噛んだ。